芸術系一般科目の動向


これまで音楽や芸術を学ぶ大学と言えば、音楽大学や芸術大学が中心でした。もちろん今でも音楽、芸術教育はそうした芸術系の大学が主流ですが、近年は一般大学においても芸術系の学部や学科を設置する大学が増えてきました。音楽や芸術を勉強したいと思う学生にとっては、そうした一般大学においても専門的な勉強ができる機会が広がっています。


一般大学の音楽、芸術教育とは

音楽や芸術と聞くと、演奏したり、絵を描いたりと、実践的なことを思い浮かべる人も多いと思います。実はこの芸術分野の勉強には、実技以外にも学問的なアプローチから勉強する分野があります。それが音楽学や芸術学と言われる分野です。

芸術の学問的な勉強には色々な分野があります。例として音楽分野だけでも次のようなものがあります。また、音楽以外にも美術や造形、建築、メディア等、様々な分野があります。

音楽学、音楽史、音楽教育学、音楽美学、音楽心理学、音楽社会学、
民族音楽学、音楽音響学、舞台芸術論、アートマネジメント、他


一般大学では、主に文学部に音楽や美術を始めとする芸術分野について研究する学科が多いのが特徴です。中には実技や実演などの実践を含む学科もありますが、その多くは学問的な研究が主流です。

一方、音楽大学や芸術大学ではピアノやヴァイオリン、美術といったような実技の修得と学問的な勉強の両方が行われており、実技教育が行われる点が一般大学との大きな違いです。

一般大学(文学部)で芸術を研究するメリット

一般大学では、芸術系学部を設置する大学以外では、主に文学部に芸術系学科や専攻が設置されている大学が大半です。ですので、英文や仏文、日本史や西洋史、心理学や教育学といったような文学部で設置される他の人文社会学分野を横断的に履修することもできます。

音楽や美術などを専攻し、芸術分野を専門的に学ぶことができる一方、他の人文社会学分野を専攻として、その専攻との関わりの中から芸術を学ぶことができるのも一般大学の特徴です。

例えば、フランス文学を専攻しながらフランス文学と音楽の関わりを研究したり、他にも、心理学と音楽、日本史と音楽、教育と音楽など、自分の専攻と合わせて芸術分野を履修する形で音楽や芸術について学ぶこともできます。

一般大学の芸術系学部について

一般大学では、文学部以外にも芸術学部や学芸学部など、学部単位で芸術系の学部を設置する大学があります。

“学部”では”学科”や”専攻”と違い、より単位の大きい課程での設置ということになりますので、音大や芸大といった芸術系大学と同様に、より芸術家志向が強くなります。従って、芸術系学部では実技の専攻科が設置され、芸術家となるための実技の修得が主な勉強となります。

教育学部の芸術系専攻について

一般大学における音楽、芸術系の学科には上記の他に教育学部の芸術系専攻があります。教育学部は主として学校の先生になるための勉強をするわけですが、その中にも音楽教育や美術教育といった芸術分野の教育専攻があります。

教育学部における芸術系専攻の特徴は、芸術大学や芸術学部と同様、実技の修得が必要な点です。但し、教育学部の場合は実技のみ特化すれば良いわけではなく、実技の他に教育科目を中心とした先生になるための学問領域も実技と同等に学ぶ必要があります。また、教員免許を取るには教育実習なども当然必要となってきます。

芸術大学や芸術学部は実技の修得が最も重要で、実技の向上に活かすために他の科目を履修するような点がありますが、芸術家を目指す大学と教育者を目指す大学(教育学部)の違いがこの点に表れています。

受験生が知らなくてはならない入試の特徴

これまで紹介した大学では、同じ音楽、芸術分野でも大学や学部、学科毎に、それぞれ異なる入試の特徴を持っています。受験生はこれらの特徴を良く知っている必要があります。当学院ではこれらの大学を次の4つに分類しています(分類はあくまで当学院独自のものです)。

①芸術系大学
②芸術系学部を有する大学
③芸術系学科、専攻を有する大学
④教育学部で芸術系専攻を有する大学

以下は①~④の分類毎に、主に実技と一般科目(英語、国語、小論文等)とのバランスについて入試傾向をまとめたものです(詳細な入試傾向は大学や学部、学科ごとに異なります)。

①芸術系大学の入試傾向

当学院で芸術系大学と分類しているのは、音楽大学、芸術大学、美術大学など、実技の修得を主たる目的とし、芸術家になることを目指す大学です。

【実技と一般科目のバランス】この芸術系大学の入試のポイントは、実技専攻の場合、国公立、私立ともに実技が重視されるという点です。英語、国語などの一般科目も課しますが、基本的には実技が重点的に評価されます。但し、実技専攻であっても極端に得点の低い一般科目がある場合、合否に影響を与えるといった大学もあります。
逆に、音楽学、芸術学などの理論系学科では一般科目が重視されます。

尚、美術大学では、一般科目も一定の評価対象となる傾向にあります。


【一般科目の傾向】国公立芸術系大学の二次試験(個別学力検査)や私立の一般科目試験では、英語や国語、小論文などにおいても、音楽や芸術に関連する内容が出題される傾向にあります。尚、センター試験は試験内容が大学の系統に沿って出題されることはありません。

②芸術系学部を有する大学の入試傾向

芸術系の学部を有する大学とは、例えば筑波大学の芸術専門学群や日本大学の芸術学部のような、大学そのものではなく学部単位で芸術系の学部を有する大学です。

この芸術系学部は芸術系大学と同様、実技の修得を主たる目的とし、将来芸術家になることを目指す学生が学びます。



【実技と一般科目のバランス】芸術系学部の入試の特徴は国公立と私立で異なります。国公立の芸術系学部では実技とセンター試験、二次試験(個別学力検査)等が全て同等に総合評価されるのが一般的です。

一方、私立の芸術系学部では芸術系大学と同様、実技が重点的に評価されます。但し、一般科目でも極端に得点の低い科目がある場合、合否に影響を与えるといった大学もあります。

【一般科目の傾向】試験内容の傾向は芸術系大学とほぼ同様です。国公立芸術系学部の二次試験(個別学力検査)や私立芸術系学部の一般科目試験では、英語や国語、小論文などにおいても、音楽や芸術に関連する内容が出題される傾向にあります。

③芸術学科、専攻を有する大学の入試傾向

芸術系の学科、専攻を有する大学とは、東大、早稲田、慶應のように一般大学の主して文学部の中に音楽や美術などの芸術系学科や専攻を置く大学です。

この芸術系学科、専攻の場合、基本的には文学部という枠の中に入りますので、人文社会学分野を学びたい学生が集まります。その中でも音楽や美術といった芸術分野を専門としたい場合に、専攻として履修します。将来は音楽学、芸術学を専門とする大学教員(研究者)、学芸員(キュレーター)、評論家、また、企業や文化団体のアートマネージャーといった様々な道が開かれています。


【実技と一般科目のバランス】基本的に大学は学部単位で入試を行っているので、文学部に設置される芸術系学科、専攻の入試は文学部という枠の中で行われます。よって、実技を課す大学はほとんどなく、一般科目の得点によってのみ合否を決める大学が大半です。

国公立であればセンター試験、二次試験(個別学力検査)、私立であれば一般科目(2~3教科)です。尚、近年は私立大学もセンター試験を利用する大学が増え、入試日程や受験科目の選択も多様化しています。

【一般科目の傾向】文学部、文芸学部等で行われる入試(英語、国語、小論文等)では文芸、教育などの人文社会学分野について幅広く出題されます。但し、大学によっては文化芸術について主に出題するなど、出題分野に特徴を持つ大学もありますので、志望校の傾向をよくつかむ必要があります。

④教育学部で芸術専攻を有する大学の傾向

教育学部で芸術系専攻を有する大学とは、例えば東京学芸大学教育学部/中等教育教員養成課程・音楽専攻といったような教育学部の中に芸術系の専攻を持った大学です。

教育学部は実技と教育学領域の修得を主たる目的とし、教育者になることを目指す学生が学びます。尚、教育学部は国公立大学に多いのが特徴です。


【実技と一般科目のバランス】教育学部は国公立、私立ともに実技と一般科目が同等に総合評価されるのが一般的です。国公立では実技とセンター試験、二次試験(個別学力検査)、私立では実技と一般科目です。
尚、教育学部の実技は芸術系大学で課されるような主科(専攻)、副科のような実技区分はされず、ピアノ、声楽、その他など、複数の実技を同等の評価で課される場合が多いのが特徴です。

【一般科目の傾向】教育学部で行われる入試(英語、国語、小論文等)では、国公立二次試験(個別学力検査)と私立の一般科目試験は供に、教育や文芸などの人文社会学分野について幅広く出題されます。但し、大学によっては教育分野、文化芸術分野について主に出題するなど、出題分野に特徴を持つ大学もありますので、志望校の傾向をよくつかむ必要があります。